21/10/24

昇段試験の思い出(続き)

今年に入って不定期で書いている「柔道部シリーズ」だけれど、「昇段試験編」が思いのほか長くなってしまったので、サクサクいきたい。これまでの経緯を簡単に振り返っておくと、1年生の夏の試験では4戦全敗(すべて一本負け)、秋に新潟市まで出かけて受けた試験では1敗3分け、1年生の冬の試験では2敗2分け、2年生の夏の試験は鎖骨の骨折で受けられず、という結果だった。実に、ここまで1勝もできていないのだ。

しかし、2年生の冬の試験では、よもや昇段できないなんてことはないと思っていた。なにしろ、秋の地区大会では個人戦で優勝しているし、県大会でもベスト16に入ったのだ。すでに何人かの黒帯に勝っている自分が黒帯になれないわけがない。そんな感じで、今回の昇段試験については自信満々だった。たとえて言うなら、答案用紙に名前さえ間違えずに書ければ合格する偏差値30くらいの大学を受験するようなノリだった(そんな大学が本当にあるのかは知らないけど)。

最初の相手は、自分と同じくらいの体格の弱そうなヤツだった。組んだ感じもふわっとしていて、簡単に技がかかる。これは楽勝だなと思ったけれど、受けがうまいのか体が柔らかいのか、なぜか「有効」以上のポイントが取れない。自分が一方的に攻めているのに、どうしてもポイントが取れないので、しだいに焦りが出てきて技が雑になり、結局時間切れで引き分けになってしまった。

この初戦の引き分けはものすごく痛い。絶対に勝っておかなければいけない試合だし、絶対に勝てる相手だったのに取りこぼしてしまった。これでいきなり後がなくなってしまった。昇段するためには残りの3試合をすべて勝たなければならない。次の相手は1年生のK君だった。K君とはこれまでに2回対戦して1勝1敗という対戦成績だ。身長はそれほどでもないけれどかなり横幅があって、自分より3階級上の選手だ。

最初に対戦したのは秋の大会の団体戦で、このときには自分が背負い投げで有効ポイントを取って勝った。次の対戦は、その1か月後くらいに開催されたオープン戦だった。高校生から社会人までだれでも参加できる大会で、個人戦は白帯の部と黒帯の部に分かれて開催され、体重は無差別だった。白帯の部でエントリーした自分は決勝戦でK君と対戦して、旗判定で負けてしまったのだ。

試合の終盤でK君の技にかかって体が畳に落ちて「効果」相当のポイントを取られてしまったのが敗因だと思うけれど、試合全体としては自分の方が優勢に攻めていた感触があったので、特にやりにくさは感じていなかった。とにかく、ここで勝たないと自分の昇段試験は終わってしまうので、絶対に勝つつもりで試合に臨んだのだけれど、組み合ってすぐに「コイツ、かなり強くなってるぞ」と感じた。

前回の対戦からいくらも経っていないのに、別人かと思うくらいにK君は強くなっていた。組み手も厳しくなっているし、前に出てくる圧力もすごく強くなっている。昇段試験の場合、負けも引き分けも同じことなので、守って引き分けるなんてことはせずに、負けを覚悟で積極的に攻めていかなくてはならないわけだけれど、圧力に押されてしまって攻めることができない。結局、この試合も引き分けに終わってしまった。結果としては引き分けだけれど、内容的には完敗だった。

ということで、いきなり自分の昇段試験が終わってしまったわけだ。試合前は、「こんなの楽勝だぜ」みたいな感じだったのに、ふたを開けてみたら全然楽勝ではなかったというオチが待っていたのだ。さすがにこの結果には落胆したけれど、まだ2試合残っているので、気持ちを切り替えていこうと思った。2勝しておけば次回の昇段試験で有利になるし、それは別としてもとにかく勝ちたかった。

次の相手は、自分よりも一回り大きなヤツだった。ひとしきり立ち技の攻防を重ねて、相手が四つん這いの姿勢になって自分と正対したときに、右手で相手の前襟をつかみ、左手を相手の脇の下に入れて下から潜り込み、回転しながら送り襟締めをかけた。技の詳細を文字にするのが難しいけれど、うまくきまると非常に鮮やかな締め技だ。立ち技の「一本!」みたいな感じになる。当時は「ローリング」と呼んでいたけれど、正式な名称についてはよくわからない。

きれいにきまると、相手が仰向けになって自分が腹ばいになるのだけれど、このときは体格差のせいで完全には回転しきれずに、自分が下から締める態勢になってしまった。それでも、相手がタップしたので「勝った!」と思ったのだが、それと同時に審判が「待て!」と言ったのだ。いやいや、あなたはいったい何を見ているんですか。たったいま相手がタップしたじゃないですか。

勝ち試合を誤審されたらたまったもんじゃないと思い、「いや、いまタップしましたよ」と審判に抗議し、「なあ、いまタップしたよな?」と対戦相手に確認した。なにしろ、こっちは後がないから必死だ(というか、すでに終わっているけれど)。審判が対戦相手に「本当か?」と確認したところ、そいつはものすごく渋々といった感じでうなずいたので、なんとか勝つことができた。というか、本来なら鮮やかな一本勝ちのはずなのに、いったい何を見ているのだろうか。本当に勘弁してほしい。

最後の相手については、どんなヤツでどんな試合内容だったのか、まったく記憶にない。覚えていないということは、おそらく楽勝だったのだと思う。結果としては2勝2分けということで、またしても黒帯になれなかった。これで、来年の春は白帯の部長として新入部員を迎えることが決まってしまったわけだ。「白帯の3年生が部長なんて前代未聞じゃないの、マジかよ」なんてことを思っていたら、なにやら招集がかかった。どうやらまだ試験は終わっていないらしい。ということで続きはまた次回。



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