21/07/18

昇段試験の思い出(続き)

前回は、夏の昇段試験で黒帯になれなかった自分を含めた3人が「裏口入学」的な方法で黒帯を目指すことになったところまで書いた。「裏口入学」とは、佐渡とは違うタイミングで実施される新潟市の昇段試験に参加するという方法だ。これがなぜ裏口入学なのかというと、新潟市の昇段試験は、佐渡の昇段試験と比べてかなりレベルが低いからだ。

「いやいや、離島の佐渡よりも新潟市の方がレベルは高いでしょ」と思うかもしれないけれど、昇段試験に限って言えば、まったくそんなことはない。なぜならば、新潟市の昇段試験の場合、中学生の参加比率がかなり高いからだ。佐渡では、中学生が昇段試験に参加するというケースはほとんどないけれど、新潟市の場合は高校生よりも中学生の方が多いくらいだ。

ということで、佐渡の昇段試験で黒帯になれなかったヤツが新潟市まで出かけていくというケースは少なくなかったのだ。そんな感じで、「新潟市の昇段試験なら楽勝らしい」という話を先輩から聞いていたので、自分を含めた白帯チームは秋の昇段試験に参加することにした。普段の練習では、「おれって相変わらず弱いな」という感じだったけれど、さすがに中学生が相手なら勝てるだろうと思っていたので、黒帯になる気満々だった。

佐渡から新潟まではフェリーで2時間半かかるので、朝5時くらいの始発に乗って出かけた。船の中では、朝飯として菓子パンを2つくらい食べた。自分は、いまも昔もパンがあまり好きではないのだけれど、そのときは朝早すぎたので船内の食堂が営業しておらず、しかたなく売店でパンを買って食べたのではないかと思う。緊張もあってか、あまり喉を通らなかったことを覚えている。

会場に着いてみると、予想よりもさらに中学生が多いという印象だった。夏の昇段試験では、自分よりも貧弱な体格のヤツなんてほとんどいなかったのに、今回は自分より背が低いヤツがたくさんいる。「よっしゃ、これならいける!」と思ったのも束の間、組み合わせが決まってみると、自分のグループはすべて高校生だった。もしかしたら中学生もいたのかもしれないけれど、少なくとも全員が自分より身体が大きかった。

おいおいマジかよ、と思って連れのM君とY君のほうを見ると、どちらのグループも明らかに中学生ばかりだ。後で二人に聞いたところ、どちらも「おそらく全員中学生だったと思う」と言っていたので、間違いないだろう。だとしたら、この偏りはおかしくないだろうか。ランダムにグループ分けしているはずなのに、どうしてここまで偏りが出てしまうのだろうか。これでは、裏口入学を期待して船に乗ってはるばる新潟市まで来た意味がない。

そんな感じで試合に臨んだわけだけれど、最初の試合でいきなり空腹を感じてしまった。組み合ってすぐに自分から技をかけて寝技の攻防になり、ひとしきりせめぎあってから「待て」の声がかかって立ち上がったときに、けっこうな空腹感を覚えたのだ。その瞬間に船内で食べた味気ないパンのことを思い出し、「菓子パンなんかで妥協するんじゃなく、しっかりと米を食べるべきだった」と激しく反省した。もちろん、この試合は負けてしまった。

その後の試合については、詳しい内容は覚えていないけれど、すべて引き分けだった。黒帯になる気満々ではるばる新潟市まで乗り込んできたのに、結果は1敗3分ということになった。夏の昇段試験に続き、またしても1勝もできなかったということだ。「自分以外すべて中学生のグループに振り分けられて見事に黒帯ゲット!」というバラ色のシナリオを描いていたので、この結果はかなりショックだった。

自分と一緒に参加したM君とY君は、どちらも4戦全勝で問題なく黒帯になった。運動神経抜群のM君については、夏の昇段試験でも2勝していたから、間違いなく黒帯になるだろうと思っていたけれど、夏の昇段試験で自分と同じく1勝もできなかったY君が黒帯になったというのは、少なからずショックだった。これで、4人の1年生の中で白帯は自分だけということになってしまったわけだ。

ただ、改めて考えてみると、もし中学生ばかりのグループに振り分けられたとしても、当時の自分が黒帯になれたかどうかはわからない。当時はこの結果がかなりショックで、「高校生ばかりのグループに入れられた自分は不運だった」と考えて現実逃避をしていたけれど、「結局は自分が弱いだけだ」ということもわかっていたので、次こそは黒帯になろうと決意した。それと、大事なときにはパンではなくて米を食べようと思った。「パンって、本当に腹に力が入らないな」というのが正直な気持ちだ。



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