21/05/30

個人戦の思い出

前回の覚書では、柔道部に入部してから初めての勝利を挙げたところまで書いた。団体戦の4試合を終えて計量してみると、やっぱり予想通りに体重計の針は56キロ近くを指している。ただ、56キロを超えているわけではなかったので、「まあ、大目に見てやるか」という予想通りの大甘な判定で、無事に最軽量クラスで個人戦に出場できることになった。



55キロ以下の最軽量級は、まだ身体ができていない1年生が大挙してエントリーすることもあり、ほかの階級に比べて人数はかなり多い。正確な人数は覚えていないけれど、このときは20〜30人くらいエントリーしていたのではないだろうか。最初にネタバレしておくと、この個人戦では意外にも優勝してしまった。個人戦では4〜5試合くらい戦った記憶があるので、「エントリーは20〜30人くらい」というのは、そこから逆算した人数だ。

ということで、午前中の団体戦で初勝利を挙げてすっかり自信をつけたこともあり、午後からの個人戦も絶好調だった。とか言いながら、準決勝までの試合については、まったく覚えていない。どんな相手でどんな技で勝ったのか、いくら思い出そうと頑張ってみても、まったく思い出せない。まあ、それくらい楽勝だったということだと思う。

そんな感じで準決勝まで勝ち上がったけれど、次の相手はT君だったので、絶対に勝てるわけがないと、試合をする前からあきらめていた。T君は学年こそ自分と同じだったけれど、柔道の実力に関しては雲泥の差があった。なにしろ、T君は中学生のときにすでに黒帯になっていて、高校のデビュー戦でいきなり個人戦で優勝したくらいに強かったのだ。

柔道部に入部したばかりの春の大会では、自分は雑用係で個人戦にすら出させてもらえなかったのに、同じ1年生で同じ階級のT君は、いきなり個人戦で優勝してしまったのだ。自分の高校からは3年生のY先輩が最軽量クラスに出場したけれど、Y先輩は本当に強くて、自分は練習でいつも面白いように遊ばれていた。そのY先輩にT君があっさりと勝ってしまったので、畳の外から試合を見ていた自分にとっては本当に衝撃的だった。

めちゃめちゃ強いY先輩に勝って優勝したということだけでも衝撃的だったのに、その後の県大会でT君が3位になったというニュースを知ったときには、さらに衝撃を受けた。高校に入学したばかりの1年生が、2年生や3年生を相手にしていきなり県大会で3位になるというのは、改めて考えてみるまでもなく、相当にすごいことだと思う。ただ、残念なことにT君はちょっとやんちゃな感じだったようで、この県大会の後に柔道部を辞めてしまったらしい。

そのままやんちゃを続けてくれればいいものを、何を思ったのか2年生の秋の大会で柔道部に復帰したらしく、個人戦の準決勝でT君と対戦することになってしまった。個人戦のトーナメント表を見て自分がT君と同じブロックだとわかった瞬間に、「これはどんなに頑張っても3位どまりだな」と思った。戦う前から戦意を喪失するくらいにT君は強かったし、「高校のデビュー戦でいきなり県大会3位」という実績は、たった数時間前に初勝利を挙げたばかりの自分にとっては圧倒的すぎる。

そんな感じで、まったく勝てる気がしないまま試合が始まったわけだけれど、いざ組んでみると、意外にもそれほど威圧感はない。強い相手というのは、組んだ瞬間に「あ、これは相当強いな」みたいなことが感覚的にわかるのだけれど、
T君の場合はそれほどでもなかった。これはきっと、初勝利を挙げた勢いが自分の中でそのまま続いていて、アドレナリンが出まくっていたことが大きな要因だと思う。

試合は、お互いに決定的なポイントを挙げることができないまま制限時間になり、判定となった。自分としては、「もしかしたら勝ったかもしれない」という感触があった。なぜならば、試合中盤に場外際でかけた「朽ち木倒し」という技で、T君が尻もちをついたからだ。当時の基準では、「有効」には少し足りないけれど、「効果」くらいのポイントはあったと思う。

これがポイントになったのかどうかはわからないけれど、結果的には自分の判定勝ちになった。午前中の団体戦で初勝利を挙げたときもうれしかったけれど、このときの勝利もめちゃくちゃうれしかった。試合前は、「まさか県大会3位のT君に勝てるわけがないよね」と思っていたから、うれしくないわけがない。その後の決勝戦では、開始早々に背負い投げで一本勝ちして、個人戦で優勝することができた。

結局この日は、団体戦で2階級上の黒帯に引き分けた試合を除いて全勝という、それまでの自分としては信じられないくらいの結果になった。当時は、佐渡地区の個人戦で2位までに入れば県大会に出場できるという条件があったので、この個人戦での優勝により、県大会の出場権も獲得できたことになる。ということで、次回は県大会の思い出について書いてみたい。



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