21/05/23

初勝利の思い出

前回の覚書では、最軽量級である55キロ以下級にエントリーするために頑張って減量して、試合当日の朝までになんとか57キロくらいまで減らしたというところまで書いた。計量時に55キロ台ならば、おそらく大目に見てもらえるだろうという計算があったのだ。午前中に団体戦が4試合あり、その後すぐに計量で、昼食を摂ってから個人戦というスケジュールだったので、団体戦で4試合を戦えば、1キロくらいは落ちるはずだ。



当時、佐渡には高校が7つあり、そのうちの1つは女子高で、もう1つの高校には柔道部がなかったので、団体戦では5校が戦うことになっていた。「佐渡には7つの高校がある」と言うと、かなりの確率で「え、そんなにたくさんの高校があるの?1つか2つくらいかと思ってた」という感じで驚かれる。いまでは子供の数が減っているから7つもないと思うけれど、当時はしっかりと7校あったのだ。佐渡をなめんなよ。

柔道に限らず、格闘技は身体が大きい方が絶対的に有利だ。なので、5人の団体戦メンバーを選ぶ場合も、身体の大きさが重要な要素になってくる。よほど台所事情が苦しくない限り、最軽量級の選手が団体戦に出てくることはまずない。なのに最軽量級の自分が団体戦に出るということは、よほど人材がいなかったのだろう。自分以外の4人は全員黒帯だったから、白帯の中では自分が最強だったということだと思う。最強の白帯って、なんかカッコいいな。

自分の得意技は、背負い投げだった。身体の小さな人間に適している技というのは、背負い投げ、体落とし、袖釣り込み腰、巴投げというのがだいたいの相場だ。その中でも一番習得しやすいのが背負い投げだ。細かい足技を使いながら背負い投げの形に持っていくというのが、自分の戦い方だった。巴投げも練習したことがあるけれど、失敗したときのリスクが大きいので、実戦で使ったことはない。

そんなわけで、団体戦で戦う相手はすべて自分よりも身体の大きなヤツばかりだった。最初の相手は、自分よりも少しだけ身体が大きかった。おそらく、1階級上の選手だったと思う。ただ、威圧感を覚えるほどの体格でもないし、自分と同じく白帯だったので、それほどビビることはなかった。新人戦ということもあり、団体戦でも白帯の選手はそれなりにいたのだ。

試合開始からしばらく経って身体もほぐれてきたときに、捨て身小内刈りという技で(いまは「小内巻き込み」というらしい)技ありのポイントを取った。いまにして思えば、これが初めてのポイント奪取の瞬間だった。それまで一度も試合に勝ったことがないばかりか、「有効」や「技あり」のポイントさえ一度も取ったことがなかったのだ。なので、このときのことはいまだによく覚えている。まさに、「とったどーー!」みたいな感じだった。

これで調子に乗った自分は、すぐに背負い投げで技ありを取り、「合わせて一本」という形で初勝利をおさめた。改めて考えてみると、初勝利まではけっこう長い道のりだった。柔道未経験で入部して、いきなりバリカンで丸刈りにされ、練習では先輩たちにいいようにやられ、2年生になっても黒帯の後輩にいいようにやられ、ようやく手ごたえを感じ始めたときに鎖骨を骨折して昇段試験も受けられず、そうこうしているうちに白帯の後輩にも抜かれるといった感じで、本当によく柔道をやめなかったものだと思う。

そんな感じで、初勝利はもちろん嬉しかったけれど、試合中は初勝利の余韻に浸っているヒマはないので、すぐに次の試合に臨んだ。次の相手は、身長は自分と同じくらいだったけれど、体重は間違いなく80キロ以上はありそうなヤツだった。しかし、ラッキーなことに白帯だったので、初勝利で調子に乗っていた自分は、「実は見かけ倒しで、そんなに強くないんだろ?」みたいな感じで畳に上がった。

実際に対戦相手はそれほど強くなくて、試合開始早々に背負い投げで技ありを取った。自分よりも30キロくらい重い人間を投げた経験は初めてだったので、なんとも言えずに気持ちがよかった。しかし、その後は体重という名のプレッシャーに押されまくって、試合終了まで技ありのポイントを守りきるのが精一杯だった。それでも、身体の大きな相手に勝てたというのは嬉しかった。

次の相手もやっぱり80キロ以上はありそうな感じだったけれど、またまた白帯だったので、臆することなく向かっていくことができた。ここまで3試合連続で対戦相手が白帯だったというのは、かなりラッキーだったと思う。もちろん、白帯の中にも強いヤツはいるけれど、白帯と黒帯とでは、見た目の威圧感からしてまったく違う。自分が白帯で相手が黒帯だった場合、それだけで勝てる気がしなくなる。

なので、身体は大きかったけれど、自分と同じ白帯ということで臆することなく攻めていった結果、背負い投げで取った有効ポイントでなんとか勝つことができた。次の相手は、おそらく70キロくらいの黒帯だったけれど、それまでの3連勝で完全に調子に乗っていたので、かなり積極的に攻めて引き分けに持ち込むことができた。2階級上の黒帯を相手にしての引き分けなら十分だろう。

ということで、これまで同じ階級の相手でも一度も勝てなかったのに、この日は80キロ超の相手を含む3人に勝ち、2階級上の黒帯に引き分けるという望外の結果になった。普段の練習でも、なんとなく自分は強くなっているのではないかと思っていたけれど、公式戦では一度も勝ったことがなかったので、この団体戦の結果は素直に嬉しかった。ということで、次回は個人戦へと続いていきます。この柔道シリーズもそろそろ終わりが見えてきたので、もう少しだけお付き合いください。



今週の覚書一覧へ

TOP


inserted by FC2 system