19/09/08

友人の訃報

仕事中に一通のメールが届いた。差出人は、自分が新卒で入社した会社の同期の男子で、自分の数少ない友人の一人だ(ここではY君としておく)。Y君はその会社で執行役員をしていて、同期では一番の出世頭だ。件名に「訃報」と書かれていたので何事かと思ってメールを開いてみると、同期の男子がガンで亡くなったという報せだった。いや、マジかよ。

あまりにも驚いたので、しばらくそのまま固まってしまった。亡くなったのは、自分が入社してから最初に仲良くなった男子で(ここではH君としておく)、会社にいた頃は一緒によく遊んだ。自分とはまったく違って、裏表のない本当にいいヤツだった。車の運転がものすごく上手くて、音楽の才能もあり、歌も上手かったし、ドラムを叩く姿もすごくカッコよかった。自分にはない才能をたくさん持っていて、純粋にうらやましかった。

女性も奥さん一筋で、高校生の頃から付き合ってそのまま結婚した。奥さんには何度か会ったことがあるけれど、とてもきれいな人だった。H君なら、こんな素敵な女性と付き合うのも当然だろうな、などと思っていた。子供は男の子と女の子が一人ずつで、わりと結婚が早かったから、もう二人とも独立しているはずだ。だから、経済的な問題はそれほど深刻ではないだろうから、それだけは救いだなと思った。

なんてことを考えたのはだいぶ後になってからで、メールを読んだ直後はちょっと冷静ではいられなかった。ただ、あれこれ考えてしまうとよけいに冷静ではいられなくなるような気がしたので、無理やり仕事に集中するフリをして、自分をごまかしてみた。しかし、そんな無理やりな集中力が長く続くはずもなく、結局は「仕事が手につかない」という状態で退社した。

帰りの電車でも、「まさか」とか「マジかよ」とか「早すぎるだろ」とか、そんなことばかりを心の中でつぶやいていた。アパートに帰って酒を飲みながら、H君とのあれこれをいろいろと思い出すうちに、なんだか泣けてきた。実はいまも、泣きながらこの覚書を書いている。最近はまったく会っていなくて、久しぶりに会いたいから連絡してみようかな、なんてことを思っていた矢先の訃報だったから、余計にショックが大きい。

連絡をくれたY君も、H君がそんな状況になっていたことはまったく知らず、自分と同様に本当に驚いたらしい。若くしてガンになると、ものすごく進行が速いらしいので、H君もそうだったのかもしれない。歳を取ってからガンになった場合は進行が遅いから、穏やかに亡くなるケースが多いようだけれど、若い人の場合は、ガンが見つかったときにはもう手遅れだったというケースが多いらしい。

何年か前に、兄貴の同級生がガンで亡くなったことがあった。その人には、小さい頃によく遊んでもらった覚えがあるので、その話を聞いたときにはやっぱりショックだった。ガンが見つかったときにはすでにステージ4まで進行していて、手の施しようがなかったらしい。兄貴によると、非常にあっけらかんと自分の病状を周囲に説明していたらしく、その心情を考えると何とも言えない気持ちになる。

これまで、自殺や事故で知り合いが亡くなったというケースはいくつかあったけれど、これからは病気で亡くなるというケースが増えていくのだろう。要は、自分もそういう歳になったということだ。ただ、自分の場合は無駄に健康な感じで、老眼以外はこれといった不都合を感じることはない。いつも、適当なところでポックリ逝きたいと思っているけれど、実際には無駄に長生きするんだろうなと思っている。

そんなことはともかく、家族の強い意向で、H君の葬儀は身内だけで執り行われたらしいので、線香をあげることはできなかった。まあ、家族とすれば、会社の人間から香典をもらったりすれば、もらいっ放しというわけにもいかないだろうから、葬儀については一切会社には知らせないということにしたのだろう。自分が同じ立場だったとしても、そうすると思う。面倒なことはできるだけ排除して、身内だけで静かに送ってあげた方がいい。

H君は、きっと自分の死を目の前にしていろんなことを考えただろう。自分が亡くなった後に残される家族のことや、仕事のこと、部下のこと、子供の頃の思い出、青春時代の思い出、本当にいろんなことを考えたと思う。そんなときに、ちらっとでも、「そういえば、永橋っていうめんどくさいヤツもいたな」なんて思い出してくれただろうか。ほんの少しでも自分のことを思い出してくれたなら、嬉しいなと思う。どうぞ安らかに。



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