18/09/08

停電に関する思い出

猛烈な台風が西日本を襲って大きな被害が出たと思ったら、その後すぐに北海道で震度7の大地震が発生した。台風や地震だけでなく、豪雨による被害もあったから、いったい日本はどれだけ自然災害による被害を受けているのだろうと思ってしまう。幸いにもと言うか、いまのところ関東地方は大きな被害を受けていないけれど、順番的にはそろそろなのかなという気もする。



それにしても、今回の地震で北海道のすべての世帯が停電になったというのには驚いた。今回のような事態を想定してバックアップシステムが構築されているのかと思ったら、そんなことはないようで、電気という最も重要なライフラインでさえ、バックアップシステムが構築されていないという無防備な状態になっているというのは意外だった。

自分が子供の頃は、けっこう頻繁に停電が起きていた。ちょっと強い風が吹いたり、大雨が降ったりすると、すぐに停電になっていたような記憶がある。かなり頻繁に停電になるので、突然電気が消えても、「またか」みたいな感じで、特にパニックになるようなことはなかった。大抵は、1〜2時間もすれば復旧していたので、それほど不便さを感じることもなかった。

実際に、当時は電気に対する依存度はそれほど高くなかった。エアコンなんていう便利なものは当然なかったし(というか、いまでもないし)、メインの暖房器具は石油ストーブだし、風呂は薪で炊く五右衛門風呂だし、羽釜もあったし、ついでに井戸もあったしで、数時間程度の停電であれば、さほど不便を感じることもなかった。

ただ、夜に停電になると、さすがに真っ暗な中で過ごすわけにはいかないので、停電したときのために買い置きしてある大きなロウソクを出して火をつけ、居間のテーブル(冬の間はコタツ)の上にロウソクを置いて、家族全員がそのロウソクを囲みながら、電気が復旧するのを待っていた。その雰囲気がけっこう神秘的で、なんだかワクワクしたことを思い出す。

こうした停電の夜には、父親が怪談などを話してくれることもあった。ロウソクの明かりを見ながら聞く怪談というのは雰囲気的に最高で、怖がりの自分はドキドキしながら話を聞いたものだ。父親自身は特に霊感のあるような人間ではないので、だれだれから聞いた話なんだけれど、という枕詞から始まるのが常だった。

その中で、いまでも覚えている話がある。村の寄り合いに参加した人が、夜中に歩いて家まで帰るときの話だ。その人は、寄り合いで出された稲荷ずしを家族のおみやげにしようと思い、その場で食べずに、ふところに入れて持ち帰ることにしたらしい。家路の途中に狐塚があるのだが、その狐塚を通り過ぎようとしたときに、何かの力を感じて、どうしても足が前に進まなくなってしまった。

なぜ前に進めないんだろうと不思議に思いながら、何度か後戻りしては狐塚を突破しようとするのだけれど、どうしてもそこから前に進めない。なぜだろうと考えるうちに思いついたのが、ふところに入っているお稲荷さんのことだ。お揚げはキツネの大好物だから、稲荷ずしを抱えた人間を通すわけにはいかない、その稲荷ずしをここに置いていけ、ということなんだろうと考えた。

しかし、せっかくの稲荷ずしをみすみす置いていくのももったいないと思い、その場に座り込んで稲荷ずしをすべて平らげた。それから、改めて立ち上がって歩き出したところ、なにごともなかったかのようにすんなりと狐塚を通過できたらしい。これは、怪談というよりも昔話のようなのどかさを感じる話だけれど、なぜかいまでも鮮明に記憶に残っている話だ。

いまから考えると、稲荷ずしとキツネの取り合わせなんて、本当に昔話みたいな設定でちょっと笑ってしまうくらいだけれど、実話だったらいいなと思っている。というか、8割くらいは実話だと信じている。もちろん、冷静に考えればそんなことがあるはずはないのだけれど、昔の田舎だったら、そういうことが起きても何も不思議ではないような気がするし、むしろそうであってほしいとさえ思ってしまう。

なんだか停電の話から逸れてしまったけれど、そんな田舎でもいつの間にか停電が起きることはなくなっていて、高校生くらいからは停電の記憶がない。上京してからは、停電になったことはないんじゃないだろうか。あの東日本大震災のときでさえ、周囲はすべて計画停電で真っ暗だったのに、自分が住んでいる地域だけ奇跡的にずっと電気が通っていた。

そのときは、この非常時に電気が使えるのはありがたいと思ったけれど、みんなが計画停電で不便な思いをしているときに、自分たちだけぬくぬくと生活できているという事実に、ちょっとした後ろめたさや申し訳なさを感じたものだ。なので、自分はまだ本格的な停電に遭って不便な思いをしたことがないということになる。実際に停電になってしまったらと考えると、ちょっと怖い。



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