18/01/28

傍聴メモより

それにしても寒い。会社に着くと部屋の中が冷え切っていて、エアコンを点けてもなかなか暖かくならない。机の表面がものすごく冷たくなっていて手先がかじかみ、うまくキーボードを打つことができない。なので、先週の木曜日と金曜日は自宅で作業した。会社で寒さに震えながら仕事をするよりも、暖かい自宅で仕事をした方が生産性が上がる。



ということで、寒波襲来のため、ただいま絶賛ネタ枯れ中につき、今回も傍聴メモを見ながらお茶を濁していきたい。10時から行われた道路交通法違反の裁判を傍聴した後に、11時20分から始まる裁判を傍聴するため、裁判所近くの立ち食いそば屋で手早く昼食を済ませて裁判所に戻ってきた。今度の裁判は、住居侵入、器物損壊、傷害という罪状になっている。

傍聴席が48席ある、千葉地裁では一番大きな法廷に入ってみると、被告席には70歳くらいの貧相な老人が車椅子に座って待機している。車椅子に乗って他人の住居に侵入し、傷害を負わせたということだろうか。なんだかすごいな。こんな貧相な老人のどこにそんなパワーがあるのだろう。その姿を見ながら、以前に読んだ、中島らもの「酒気帯び車椅子」という小説のことを思い出した。

この小説は、52歳で亡くなった中島らもの遺作となった作品で、愛する妻と娘を目の前でヤクザに凌辱されて殺害され、自らも下半身不随になった男が、友人の協力を得てものすごい装備を備えたスーパー車椅子を作り上げ、それに乗ってヤクザに復讐するというお話だ。はっきり言ってメチャクチャな小説で、暴力シーンはえげつないし、最後の復讐でもカタルシスを感じることはできなかった。

まさか、この貧相な被告も、そんなスーパー車椅子に改造したわけでもないだろう、などと考えていたら、裁判が始まった。まずは、検察官が起訴事実を読み上げるわけだけれど、これがものすごく早口なので驚いた。本職のアナウンサーでも、これほど早口でスラスラと読み上げるのは無理だろうと思えるくらいの速さなのだ。早く終わらせようとしているのか、明らかにやる気が感じられない。

事件の概要としては、被告が日ごろから可愛がっていたネコがいなくなってしまい、近所の老人(82歳)がそのネコを連れ去ったものと思い込み、窓を破壊してその老人の家に侵入し、寝ていた老人をバールで襲ってけがを負わせたということらしい。その経過を聴きながら、なんだよ、ネコが原因かよと、思わず脱力しそうになった。

それで逮捕されたわけだが、拘留中に脳梗塞を発症してしまい、病院に救急搬送されたものの、右半身にマヒが残り、車椅子生活を余儀なくされているということだった。なるほど、そういう事情だったのか。スーパー車椅子で被害者宅に乗り込んだわけではないことを知って、なんだか安心した。でも、拘留中に脳梗塞になるなんて、運がいいのか悪いのかよくわからない。

その後、これから被告がどこかの病院や施設に入居するにあたり、現在の所有物を処分してもかまわないかどうかを検察官が確認したのだが、このやり取りがあまりにもかみ合っていなかったのがおかしかった。たとえば、凶器として使用されたバールについて、これは処分してもかまわないよねと検察官が確認すると、いや、自分の家にあるからといって、それが自分のものであるとは限らない、なんてことを答えるのだ。

じゃあ、自分のものでないなら、処分してかまわないよねと検察官が尋ねると、いや、バールなんてそもそもどこの家にもあるようなものだから、などと、またわけのわからない答えが返ってくる。こうした不毛なやり取りをしばらく続けた後で、「じゃあいらねえよ、面倒くさくなっちゃった」と被告が答えて、ようやく処分してもかまわないということになった。

そのほかに、懐中電灯とボロボロになった靴の処分についても確認が行われたのだが、「だって、それしか持ってねえんだもの」ということで、どちらも必要だという。検察官が、「でも、これから病院や施設に入ることになるわけだから、そこで新しい履物をもらえるだろうから要らないんじゃないの」と言っても、「いや、靴はそれしか持ってないから」という答えで、これもかみ合わない。

脳梗塞のせいなのか、呂律が回っていないような話し方で、頭の回転も鈍くなっているのかもしれない。そんなこんなで、なんともかみ合わないやり取りに失笑しながら、いきなり判決ということになった。普通は、次回の公判で判決が言い渡されるのだが、おそらく被告の健康状態を考慮して、一気に判決を言い渡し、すぐにでも病院なり施設なりに入れようという配慮だろう。

ということで、求刑が懲役2年のところ、判決は執行猶予3年付きの懲役2年ということになった。被告には、証人はおろか、弁護士すらもついていないという異例の裁判で、とりあえず形だけ裁判しておきましたよという感じだった。証人として出廷してくれる家族や知人もおらず、ネコだけが心の支えだったんだろうと思うと、なんだか悲しい。



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